社説比較。

 社説:少年事件と法改正 厳罰化では子供を救えない
 東京・板橋で15歳の少年が両親を殺した上、殺害現場の自宅をタイマーを使ってガス爆発させるという前代未聞の事件が起きた。福岡市では15歳の中学生が17歳の兄を刺殺した。
 どちらも凶悪で衝撃的な事件だが、容疑者の供述や警察の捜査から、弱い立場の少年が追い詰められた末に及んだ犯行との見方が強まっている。板橋の事件では父親の強圧的な接し方が引き金になったとみられ、福岡の事件の少年は兄の暴力におびえていた。多くの少年事件と同様、加害少年には被害者の側面もあったようだ。
 少年による犯罪や非行では、まず背後で大人が少年に何らかの問題を起こしていないか、疑ってみる必要がある。子供はいきなり悪くならない。意識して、あるいは無意識のうちに、大人が子供に悪さを仕向けているものだからだ。
 社会を震かんさせた事件を起こした少年の多くが、親から虐待されていた事実も追跡調査で判明している。親に食事も与えてもらえぬ子が、万引きで補導されたのを機に非行を繰り返すケースも目立つ。子供の罪をとがめるだけでは抜本的な解決に至らぬことはいうまでもない。裏返せば、大人の問題を解決すれば、凶悪な少年事件の多くは防ぎ得るはずだ。
 この観点から、国会で審議中の少年法と少年院法の改正案をみると、疑問点が少なくない。刑事責任を問えない14歳未満の少年の事件で警察に強制調査権を与えたり、14歳以上という少年院送致の下限年齢を撤廃する……という触法少年への厳罰化に主眼が置かれているが、低年齢層の少年の事件ほど大人の責任が問われるべきはいうまでもない。
 少年法は、00年に刑事罰対象年齢を16歳から14歳に引き下げる改正が行われたばかりだ。神戸市の連続児童殺傷事件など14歳の少年による残忍な事件がたまたま相次いだため、凶悪犯罪の低年齢化が進んでいると騒いでの改正だったが、必要性は当時から疑問視されていた。今回の改正は長崎県で起きた小学女児による同級生殺害事件など触法少年の事件発生を受けてのものだが、統計的に凶悪犯罪の低年齢化が進んでいるとは言えず、触法少年の凶悪事件も増加しているわけではない。
 偶発的な事件の衝撃に惑わされることなく、可塑性に富んだ子供を非行や犯罪の道から救い出し、健全に育成することを目的とする少年法保護主義の精神に立ち返る時ではないか。触法少年の事件では子供を罪人扱いすることになりがちな警察の強制調査権を新設しなくても、家裁が令状を交付すれば大半の捜査活動が可能になるだろう。少年院送致も謙抑的に行われるべきで、刑罰の代替手段と考えるなら心得違いも甚だしい。
 少年事件を一掃するには、続発する児童虐待に象徴される大人たちのゆがんだ育児やしつけ、子への接し方を正常化させる対策こそ優先すべきだ。今回の改正案は、関係者間に異論のない公的付添人制度の導入を除き、子供を守る視座から見直すべきである。(毎日新聞 2005年6月26日)

 ■【主張】15歳の親殺し 家族の役割を考え直そう
 十五歳の少年が東京都板橋区の社員寮の管理人をする両親殺害容疑で逮捕された。殺害後、時限装置で寮爆破まで図った少年の行為に震撼(しんかん)を覚える。
 昨年十一月には水戸市で十九歳の無職少年が両親を鉄亜鈴で殴殺、土浦市でも二十八歳の無職男が両親と姉を殺害した。また福岡市では十五歳の中三の弟が十七歳の兄を殺すなど「家庭内殺人」が相次いでいる。
 このような凶悪事件が起きるたびに容疑者の「心の闇」が論議を呼ぶ。板橋区の事件では、少年は母を殺害した点について「かわいそうだった。普段から『死にたい』と言っていたので、父親と一緒に殺してやろうと思った」と供述しているとされる。父との確執が殺人にまで至ったのだろう。
 父子相克は神話の世界からの人間の持つ根源的なテーマの一つである。ただ、かつては「殺したい」ほど憎んでも、どこかで行動を抑制するブレーキが働き、やがて葛藤(かっとう)を克服して子は父を乗り越えていった。今日のように、悲劇が度重なるように現実化するのは異常の極みというほかない。
 なぜこのように簡単に親殺しが行われるのか。一つは親が子に乗り越えられるべき対象たり得なくなってしまったことがあるのではないか。人徳とか仁慈とか勇気とか正直とか、子が振り仰ぐような重みが親の側になくなってしまったことが背景にあるといえるだろう。
 だから、子供にとって親も対等な他人の一人に過ぎなくなる。加えて、自己決定とか自己実現だとか、「個人の尊重」が肥大して、結果的に家族を壊すシステムが知らぬ間に稼働し、社会をむしばんでいることも見逃してはならない。
 子にとって親は自己の生命をもたらした存在である。動物の子は生まれてすぐに立ち上がる。そうしないと、外敵に食われてしまうからだ。人間の赤ちゃんは全くの無防備な状態でこの世に誕生する。親の保護なしに命を永らえることなど不可能なのだ。この一事をもってしても、子にとって親が対等な他人の一人であるわけがない。
 人間にとって家族は生命継承のためなくてはならない基本単位だ。家族の役割を考え直し、個の肥大をあおり立てる風潮に歯止めをかけたい。(産経新聞 2005年6月26日)

 社説:[虐待と非行]負の連鎖断ち切ることだ
 全国の児童相談所で非行相談を受け付けた子どもの30%が親などからの虐待経験者―とする調査結果が明らかになった。半数は成長過程で養育者が代わり、親や家族らとの愛着関係を絶たれる経験もしているという。
 非行と虐待(養育放棄=ネグレクトを含む)が深く関係していることを示しており、子どもを取り囲む環境が破壊された結果といえよう。
 また、夫から妻への暴力であるドメスティックバイオレンス(DV)のある家庭で育った子どもが全体の10%いることも判明している。
 母親に対する父親の暴力を見たことが心理的に作用し、非行につながった可能性も否定できない。
 妻に暴力を振るう男性の多くはまた、子どもを虐待していたというデータもある。「しつけ」と称して暴力を正当化するケースも多く、大人の責任は極めて大きい。
 暴力が子どもに与える不安や恐怖を見過ごしてはならず、虐待と非行という暴力がもたらす負の連鎖を断ち切っていくことが重要だ。
 調査は全国児童相談所長会が昨年十月、二〇〇三年度に受け付けたすべての非行相談についてアンケートで実施。厚生労働省研究班が約一万一千人分のデータを虐待を中心に分析した。
 63%が男子で、主な非行内容は「盗み」「家出・外泊」などとなっている。十四歳未満が中心で、そのうちの約70%が中学生だった。
 データには表れてないが、主に警察が対応する十四歳以上を含めると数値はさらに増えるはずだ。
 注視しなければならないのは、全体の30%が虐待を受けた経験がある子どもだということである。
 複数の種類の虐待を受けた子が目立ち、殴るなどの身体的虐待は78%。ネグレクトが73%、心理的虐待50%、性的虐待32%と続いている。
 相談を受けた子どもの家庭環境で着目したいのは、親が離婚したり、施設に預けられたりして養育者が途中で代わった子が47%もいることだ。そのうちの約四分の一が三歳未満で親が代わっている。養育者が代わった回数は一回が66%、二回18%、三回以上も11%いた。
 明らかなことは、幼少期の親子関係が子どもたちの将来に重大な影響を与えているということである。
 子どもたちを健やかに育てていくのは大人の責任だ。
 大人と子どもが共に人権意識をはぐくみ語り合える環境をどう築いていけばいいのか。地域の大人が連携し子どもと一緒に考えていくことが肝要だ。(沖縄タイムス2005年6月15日)

 社説:非行児調査・親の愛情で非行を防げ
 全国の児童相談所で非行相談を受け付けた子供の30%は親などから虐待されたことがあり、ほぼ半数は育つ途中で養育者が代わり、親や家族との愛着関係を絶たれる経験をしていたことが、厚生労働省研究班の調査で明らかになった。
 親から虐待されたり、突き放されたりした体験が心の傷として残り、非行に走る一因になったことは容易に想像できる。児童虐待がいかに不幸な結果をもたらすのか、その深刻さがあらためて浮かび上がった。
 虐待を受けた子供は、複数の種類の虐待を受けたケースが目立ったという。殴るなどの身体的虐待が78%、ネグレクト(養育放棄)が73%、心理的虐待が50%、性的虐待が32%と続く。
 子をいたわり、慈しむ気持ちを持たない親が存在することは極めて残念であり、不幸なことだ。
 未然防止が何よりも重要だが、虐待のほとんどは密室で行われているため、実際に防止するのはそう簡単ではない。
 少なくとも、虐待の可能性が明らかになった段階で、直ちに調査し、児童を保護できるような制度を充実させなければならない。そのためには、行政、保健・医療、学校、地域などのネットワーク構築が不可欠だ。地域の連帯を強めることも大切になってくる。
 今回の調査では全国の児童相談所で非行相談を受け付けた約1万1千人分のデータが収集された。非行内容は「盗み」「家出・外泊」など。14歳以上は主に警察が対応するため、14歳未満が中心で、約7割を中学生が占めている。
 全体の47%は、親が離婚したり施設に預けられたりして養育者が途中で代わる体験をしていた。「攻撃性が高い」「情緒不安定」といった心理的・精神的問題を抱える子供は85%で、虐待経験のある子供の場合は92%に達した。1割はドメスティックバイオレンス(DV)のある家庭で育っていた。
 一般家庭で社会的介入が必要な虐待の発生率は少年少女千人に対し年間1・5人程度と推定した研究報告があるという。それが、児童相談所で非行相談を受け付けた子供の場合は3割にも上る。
 多くの場合、非行に走る背景に、養育上の問題が存在することを裏付けた調査結果だ。
 米国の教育家ドロシー・ロー・ノルトは「子は親の鏡」という詩の中で、「けなされて育つと、子どもは人をけなすようになる。励ましてあげれば、子どもは自信を持つようになる」と述べている。
 親の接し方次第で子供は良くもなれば悪くもなる。非行を防ぐ一番の良策は、愛情をもって育てることに尽きる。
 子供を不幸な境遇に追いやってはならない。(琉球新報2005-6-15)

 靖国神社に顕彰碑 パール判決の意義を刻む
 小泉純一郎首相の靖国神社参拝をめぐり、いわゆる「A級戦犯」の位置付けが問題になる中、極東国際軍事裁判(東京裁判)で全被告の無罪を主張したインド代表判事、ラダビノード・パール博士(1886−1967年)の業績をたたえる顕彰碑が東京・九段の靖国神社境内に建立され、25日、インド大使館関係者らを招き除幕式が行われた。同神社は「日本無罪論を展開したアジアの学者がいたことを思いだしてほしい」としている。
 顕彰碑は高さ2.1メートル、幅1.8メートルで、京都市東山区の霊山(りょうぜん)護国神社境内に設置されている碑と同じ形状。パール博士の上半身を写した陶板が埋め込まれ、全員無罪とした東京裁判の個別意見書(パール判決)の意義などが刻まれている。
 パール博士は東京裁判の11人の判事中、唯一の国際法学者で、同裁判の実態を「戦勝国が復讐(ふくしゅう)の欲望を満たすために、法的手続きを踏んでいるようなふりをしている」と看破。米軍による原爆投下などにも触れた上、東条英機元首相ら判決が「A級戦犯」とした被告を含む全員の無罪を主張した。「時が熱狂と偏見をやわらげた暁には…過去の賞罰の多くに、そのところを変えることを要求するであろう」と予言したパール判決はその後、世界中の多くの政治家や学者に認められている。
 除幕式にはインド大使館のビー・エム・バリ駐日武官を含む関係者約40人が参加。神式の祭典の後、建立に協力したNPO法人「理想を考える会」の羽山昇理事長が、「顕彰碑が靖国神社に設置された意義は大きい。歴史に対する自虐的風潮などの根源は東京裁判にあり、その問題性を見直すきっかけになれば」とあいさつした。【2005/06/26 産経新聞