尼崎脱線事故:過酷な労務管理の実態語る 運転士の同僚
 兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故で、高見隆二郎運転士(23)と同じ電車区に所属する運転士が毎日新聞の取材に応じた。運転士はJR西日本の過酷な労務管理の実態を明らかにした上で「高見運転士は利益優先主義の会社の犠牲者。今回の事故を機に、会社の体質を変えなければ」と語った。【脇田顕辞】
■事故原因
 伊丹駅オーバーランしたため電車が遅れ、焦っていたのだろう。ギリギリで組まれた今のダイヤでは、急いでもあまり時間は縮まらない。「何とかしなければ」と躍起になるうちパニックに陥り、通常では考えられない高速でカーブに入ってしまい、あわてて非常ブレーキをかけたのではないか。
日勤教育
 高見運転士は昨年6月にもオーバーランをして日勤教育(再教育)を受けている。運転士の点呼場所から見える専用の机に見せしめのように毎日座らされ、暗い表情で反省文を書いていた。2度目のオーバーランで、運転士資格はく奪か、より長い日勤を恐れたのでは。処分を受けると給料もボーナスも下がり、昇進にも影響する。だから、オーバーした距離を短く申告するよう車掌に求めたのだろう。
労務管理
 97年のJR東西線開通で便数が増えて運転時間も延びたのに、逆に休憩時間は減り、集中力の維持は難しい。運転士への直接指導は、以前は管理職が運転席に入る形だったが、数年前から私服職員がこっそり客席側からチェックする形に変わった。過密ダイヤで遅れを出さないよう必死なのに「後ろから見られているかも」という不安もあり、精神的にきつい。
脱線事故
 幹部は「とにかくオーバーランには注意しろ。新聞ざたになるから」と言うだけ。本当に反省していると思えない。乗務員がホームでお客さんに突き飛ばされたり、すれ違い際に「人殺し」と言われることもある。みんな下を向いて歩いている。
 会社は、利益追求のための過密ダイヤを守るため、乗務員にプレッシャーをかけ続けてきた。安全のためには乗務員にゆとりを持たせるべきだ。高見運転士も会社の営利主義の犠牲者と思う。会社は信頼を取り戻すためにも、体質から変えなければならない。(毎日新聞 2005年4月30日 15時00分)

 尼崎脱線事故:事故の快速電車、伊丹駅に30秒遅れで到着 106人が死亡した兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故で、事故を起こした快速電車が現場手前の伊丹駅に約30秒遅れで到着していたことが30日、県警尼崎東署捜査本部の調べで分かった。電車は同駅で約40メートルオーバーランし、結局、約1分30秒遅れで同駅を出発した。その直後、高見隆二郎運転士(23)=死亡=が「(オーバーランを)なかったことにしてほしい」と、車掌(42)に頼んでいたことも判明。捜査本部は、高見運転士が相次ぐミスを隠すために遅れを取り戻そうと猛スピードでカーブに進入したとみて、当時の状況について調べている。
 調べでは、JR西日本の運行ダイヤは、伊丹駅の到着時刻を午前9時14分30秒と規定。しかし、事故当日の25日は約30秒遅れの同15分ごろ到着。しかも、電車は停車位置を約40メートル過ぎてストップしたためホームまで戻らなければならなくなり、出発時には1分30秒の遅れが生じた。
 駅を出発後、車掌は高見運転士と車内電話で遅れの原因を運転指令に無線でどう報告するか相談。高見運転士は「なかったことにしてほしい」とオーバーランを隠すよう依頼した。車掌は「それはできない」と断ったが、オーバーランの距離を約8メートルと虚偽報告した。
 電車はスピードを上げたため次の塚口駅通過時には遅れを1分前後に短縮したが、事故現場直前のカーブに制限速度を約30キロ上回る約100キロで進入。直後に非常ブレーキがかかり、電車は45度前後左側に傾いて脱線し、線路脇のマンションに激突した。事故直前、運転指令が伊丹駅でのオーバーランの状況を確認しようと高見運転士を無線で2度呼び出したが、応答はなかった。
 捜査本部は、伊丹駅到着前の遅れを取り戻そうとした高見運転士が焦ってオーバーランし、さらに遅れが大きくなったためスピードを上げてカーブに進入したとみて、車掌らから事情を聴いている。(毎日新聞 2005年4月30日 15時00分)

 ミスにランク付け…オーバーラン20Mで賞与5万円減 (夕刊フジ)
 JR福知山線脱線事故で、快速電車の運転士(23)が所属していたJR西日本の京橋電車区大阪市)などが、乗務員にミスがあった際、オーバーランの距離など重大性に応じたランク付けを行っていることが30日までに関係者の証言で分かった。JR西は事故直後、高見運転士らの距離の虚偽申告に対し、「処分は距離に関係ない」としていた。ランク付けは社内処分を決める際の目安などになっていたといい、運転士らを過度の緊張状態に追い詰めていた疑いが強い。
 これまでの調べで、運転士は事故直前に伊丹駅オーバーランした際、車掌(42)に「(距離を)まけといて」と口裏を合わせ、実際は40メートルだった過走距離を8メートルと偽って運転指令に報告していたことが分かっている。
 JR西や車掌が40メートルと主張するオーバーランの距離は、その後の乗客らの証言から「60メートル以上」の疑いが出ている。焦るあまり、通常の停車位置にさえ戻さなかったとの目撃もある。
 JR西は、「オーバーラン自体が問題。40メートルも8メートルも処分には関係なく、(虚偽報告の)理由がわからない」としていた。だが、実際には、車掌が運転士の事情を勘案し、より軽い処分で済む距離にとどめて運転指令に申告していた可能性が高い。
 関係者によると、ランク付け制度の有無やその内容は、電車区などごとに異なるが、京橋電車区では「事故種別」と呼ばれ、4段階に分けられている。オーバーランの場合、20メートル以内なら「ヒヤリハット」という最も軽い段階だが、それを超えればその上の「反省事故2」に該当する。
 反省事故2以上のミスでは、社内の懲戒対象となるほか、ランクの差はボーナス減額などの処遇に直結。「地獄」といわれ、自殺者も出している「日勤教育」(研修)の内容や期間にも影響するとされる。
 JR西日本関係者によれば、京橋電車区では「オーバーランが20メートルを超えた場合、反省事故2でボーナスカット5万円」となることが、運転士の間では共通の認識だったという。[ 2005年4月30日18時0分 ]