学力テスト:ゆとり世代の小中学生、成績アップ 「学力」議論に影響も−−文科省 ◇同一問題中43%が前回以上
 文部科学省は22日、全国の小学5、6年生約21万人と中学生約24万人を対象に実施した「学力テスト(教育課程実施状況調査)」の結果を公表した。02年4月から始まった新学習指導要領の定着度をみる初のテストで、旧指導要領下で行われた前回(02年)と同一の問題のうち約43%が前回より正答率が高かった。小5〜中3の延べ23教科のうち、中1の社会と数学を除く全教科で前回より点数が良かった。学習意欲・時間も増加に転じた。一方、昨年末の国際学力調査結果で指摘された記述式問題の弱さは今回も見られた。「学力低下」の原因とも言われる新指導要領で学んだ児童生徒の点数が上がったことで、改めて学力をめぐる議論が起きそうだ。(3面にクローズアップ、社会面に関連記事、12面に特集)
 中山成彬文科相は「学力の低下傾向に若干の歯止めがかかった。現場による基礎的事項の徹底の表れだ」と一定の評価をしており、義務教育改革を審議している中央教育審議会での議論に反映させる。しかし、「ゆとり教育」見直し路線は変更しない構えだ。
 テストは、昨年1〜2月、国公私立を問わず無作為抽出し、小学校は全体の15%にあたる3554校の約21万1000人、中学校は2584校(23%)の約24万人に実施した。小学5、6年生は4教科(国語、算数、社会、理科)、中学1〜3年生は英語を加えた5教科が対象で、前回は旧指導要領(小学校は92年、中学校は93年に導入)で学んだ児童生徒を対象に、02年に実施した。
 全体(1939問)の約3割が前回と同一の問題で、正答率が前回より良かったのは約43%に上った。前回より悪かったのは約17%、前回と変わらないのが約39%だった。特に、小5の算数、社会▽小6の算数▽中1の理科▽中2の国語、社会▽中3の理科の計7教科では、5割以上の問題で前回より点数が良かった。前々回(94〜96年)まで含めた同一問題での正答率を比較しても、今回が最も成績が良かった。
 教員が普通に指導した場合に予想される正答率をあらかじめ設定し、これと各問題の正答率を比較したところ、中3の英語を除いたすべての教科(22教科)で、過半数の問題が予想を上回るか、予想と同程度の正答率だった。ただ、記述式の問題に絞ると、小6、中1、中2の国語、中1の数学、中1、中3の英語の6教科で、過半数が予想を下回った。【千代崎聖史】
 ■ことば
 ◇教育課程実施状況調査
 学習指導要領の改訂に生かすために文科省が全国の小中高校を対象に行う学力テスト。56年度に始まったが、都道府県間、学校間の競争が過熱し、日本教職員組合も反対して、66年度に中止された。小中学生に限定して81年度に再開し、前回(02年)の結果で学力の低下傾向が指摘された。(毎日新聞 2005年4月23日 東京朝刊)

 学力テスト:成績アップ どう評価?揺れる学校現場
 点数も学習意欲も前回より上昇−−。22日に公表された小中学生全国学力テストの結果は、「ゆとり教育」で学んでいる子供たちの意外な像を描き出した。学力低下への懸念の声を受けて、ゆとり路線見直しを進める文部科学省は「基礎や基本の定着に現場が努力した成果」と、戸惑いながらも評価する。新学習指導要領で授業時間数や教科書の内容が削られたのに、なぜ成績はアップしたのか? 「ゆとり派」も「学力重視派」も、学校現場での取り組みに視線を注ぐ。【野倉恵、井上英介】
 長机2列の生徒と男性教師の距離はごく近い。1学級2グループ、各15人程度で4教科の少人数授業を行う東京都世田谷区立駒沢中学校。生徒が教材を見たうえ教師と面談し、自身で学力にあったグループを選ぶ。「分数が分からない」。少人数の教室では生徒から率直な質問が出る。小田川欣市校長は「教科時間が減ってもじっくり考えさせる工夫が大切。総合学習を現場がどう生かすかが問題だ」と話す。
 「今はどの教科も時間減で反復が不十分になりがち。英語は他教科以上に時間減が響く」。全学年で「選択」の週1時間を英語にあてている文京区立本郷台中学校の英語主任、大原八重子教諭(48)はそう指摘する。
 大原教諭は「成績だけでなく『学習意欲』も絶対評価の対象となり、教師が生徒から意欲を引き出す経験が積まれてきた成果ではないか。通常授業で目立たない子が、総合学習の発表で輝く場面も多い」と言う。
 授業時間(45分)にとらわれないノーチャイム制を導入している小学校の教員は「時間があればできる子や、(映像などの)メディアを使えば分かる子もいる。レベル別だけでなく興味・関心に応じたグループ分けを実践している学校もある。一斉授業では理解できなかった子供たちには多様な学びの方法が必要だ。いまは、根付き始めた新指導要領や総合学習を大事にするときではないか」と指摘する。
 一方、ゆとり路線を批判する人々からは、今回の学力テストの結果について辛らつな指摘も聞かれる。
 「新学習指導要領の成果ではない。学力低下を現場が深刻に受け止め、漢字や計算のスキルアップなど基礎の徹底に力を入れてきた。その表れだ」と東京都多摩市立多摩ニ小の有田八州穂教諭は言う。
 「子供が感想文に『算数が大好きになった』と書いてきた」。3月まで勤務した杉並区立の小学校で有田教諭は3年間、総合学習の時間を使い、工夫をこらした算数の授業に取り組んだ。総合学習について「各地に優れた取り組みもあるが、文科省が指示したような『国際理解』『福祉』では、借り物の授業しかできない。現場に混乱をもたらしただけだ」と言う。
 私立学校や学習塾に詳しい教育コンサルタント「森上研究所」(千代田区)の森上展安所長も「親たちは学力低下に不安を抱き、わが子を一斉に塾へ通わせ始めた。国民に自助努力を強いた結果だ」と、皮肉を込めて言う。少子化や不況の影響で学習塾の生徒数は90年ごろをピークに減り続けていた。ところが、前回の調査結果を踏まえ学力低下論が盛んになった02年ごろから生徒数は増加に転じ、大手の塾は講師不足で悲鳴を上げているという。(毎日新聞 2005年4月23日 1時20分)

 中山文科相ゆとり教育は「反省すべき」と中学生に謝罪
 中山成彬文部科学相は21日、水戸市茨城大学付属中学校での「スクールミーティング」で、ゆとり教育について「授業時間を減らしたことは反省すべきだと思う」などと中学生に謝罪した。
 中学生からは「学校は勉強する所なのに、総合的な学習の時間のせいで、学校外で勉強するなど逆転現象が起きている」などと厳しい質問が相次いだ。中山文科相は「ゆとり教育の見直しで教科書のページ数も元に戻りつつある。(薄い教科書の)皆さんには申し訳なく思う」と答えた。
 さらに「総合的な学習の時間は、人間力のある子を育てるために導入されたが、全般的な検証を始めたところだ」などと述べた。
 一方、同日に訪れた茨城大付属小学校では、教諭から「総合学習の時間は必要だ。子供が荒れる原因は偏った学力による」などとゆとり教育の維持を訴える意見が相次いだ。これに対し、中山文科相は「総合的な学習の時間は労力や蓄積がないと取り組めない。『こんなことなら基本教科を増やした方がいい』という声も上がっている」と述べた。【高野聡、土屋渓】(毎日新聞 2005年4月22日 0時03分)