毎日新聞より。

 長谷川博一さん=リストカットや虐待に取り組む臨床心理士
 ◇子供は自分で育つ、放任するのがいい−−長谷川博一(はせがわ・ひろかず)さん
 16年前には学者を目指していた。しかし10年ほど前、自傷を繰り返す少女たちと出会い、その背景に被虐待経験があると知って歩む道が変わった。今、臨床家として虐待問題の最先端に立つ。
 子供も親も両方救おうと99年、虐待の治療グループ「親子連鎖を断つ会」を結成。最近は「虐待を放置した末の悲劇が犯罪だ」と唱え、加害者との心理面接にも携わる。
 大阪・池田小の児童殺傷事件では宅間守元死刑囚に15回面会し、虐待の落とす影を見た。元死刑囚からは1冊の本を渡された。人格障害に関するその本の「歓迎されない出生」という項に、元死刑囚が熱心に書き込んだ跡を見つけた。法廷ではいた遺族への暴言について「ハッタリや。おやじ(父親)がいつもわしに言うてた屁(へ)理屈と同じや」と漏らすのも聞いた。
 「殴るけるの暴力や暴言だけが虐待ではない。『きれいな虐待』もある」が持論。親子関係が昔より密な現代、親が苦労する姿を見せただけで子供は親に遠慮して育つ。親の期待通りに行動した子供をほめすぎることで、親の顔色をうかがう子に育つ。昔なら何でもなかった行為が今は虐待と同じ意味を持つ。そして「良い子」の仮面をかぶった子がある日、自傷したり、引きこもったりする。
 「現代の子育ての盲点です。子供の育つ力を信じ、ほったらかす方がいい。でないと自傷もひきこもりも『良い子』の犯罪も増えるばかりです」<文・小国綾子/写真・小林努>
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 ■人物略歴
 愛知県生まれ。東海女子大教授(臨床心理)。不登校児宅に大学生を派遣するメンタルフレンド活動も手がける。45歳。(毎日新聞 2004年12月29日 東京朝刊)