朝日の『社説』と産経の『主張』より。

大阪市役所――税金も食い倒れか
 役所が身内に甘いのは珍しいことではないが、まさかここまでとは。
 大阪市が市役所のOB2万人に対して、条例にないヤミの退職金と年金を支給していたことが発覚した。本人たちの掛け金に上積みする形で税金がつぎ込まれ、その額が過去11年間で304億円にのぼるというのだから恐れ入る。
 職員の互助組合がつくった団体に、市が福利厚生の名目で税金を入れ、掛け金と合わせて生命保険会社に運用してもらう。すると、局長級だと1人あたり計400万円が支払われる仕組みだ。
 市の条例によれば、職員の退職手当は1人平均3千万円前後になる。共済年金もある。そのうえに、こんな制度をこっそり作っていた。
 まだある。死亡すると550万円が出る団体生命保険や共済に職員を加入させ、掛け金の全額を市が負担していた。総額は22年間で100億円。
 カラ残業や、説明のつかない特殊勤務手当も次々と明るみに出ている。市の発表によると、市内の24の区役所で疑問のある超過勤務手当の支給が、今年4月から10月までで約2万件見つかった。総額は1億3千万円にのぼる。市役所全体の調査が進めば、さらに膨らみそうだ。
 税金を私物のように扱う感覚にはあきれ返る。常識はずれの制度はただちに廃止し、すでに支出した筋の通らぬ税金は返還させるべきである。
 それにしても、なぜこんなことがまかり通って来たのか。現在の関淳一氏まで5代の市長はすべて助役経験者で、市のOBと連合系の職員組合が一体となった選挙で勝ってきた。そんな労使蜜月が、身内大事の非常識の背景にある。
 市議会も怠慢である。互助組織などに投じられた税金は、市の予算書には「人件費」や「委託料」とあるだけだが、実態を議員が知らなかったはずはない。
 乱脈にとどめを刺すには、密室で行われてきた労使交渉を納税者の目にさらすことである。三重県は4年前から報道機関に労使交渉の一部の傍聴を認めた。鳥取県は、まず年功序列で一律に昇級する「わたり」などの実態を公表し、労使交渉の内容もホームページで公開した。反響を改革に生かそうというのだ。
 関市長は改革委員会を設置した。本来なら市長を辞してもおかしくない深刻な事態だ。委員会には外部の人を入れ、公開の場で実態の解明をしてほしい。
 大阪市には市民から「市役所は大阪から出ていけ」といった怒りの声も届いたという。財政難を理由に市民サービスの縮小が検討されている折でもある。
 そもそも市と組合、市議会がこんな体たらくでは、地方分権どころの話ではなくなる。「財源を地方に渡せば、何をするか分からない」という中央官僚の分権反対論を勢いづかせるだけだ。
 公務員の給与や手当のお手盛りは、大阪市だけではない。あなたの住む自治体では大丈夫だろうか。

■【主張】カリスマ退場 魂を入れるのは経営者だ
 今年もまた、ワンマン経営者の退場が相次いだ。西武鉄道グループ総帥の堤義明氏が西武鉄道有価証券報告書虚偽記載を引き金に、グループの全役職から退き、ミサワホームの創業者である三沢千代治氏は、産業再生機構の支援を前に名誉会長を退任した。
 同じく産業再生機構が支援するダイエーでは、機構の圧力で創業者・中内●氏が同社との関係を完全に断ち、株や不動産など資産を売却した。
 ワンマン経営すべてを否定するつもりはない。高度情報化社会では稟議(りんぎ)書を回し、いたずらに会議を繰り返すより、トップの決断が重要な場面も多いからだ。実際、三氏の指導力と行動力は、企業発展の原動力だった。
 しかし、それが行き過ぎとなり、西武は七年間も取締役会が開かれない異常事態に陥る。経営判断はすべて堤氏に指示を仰いでいたという。
 バブル期に急速に多角化を進め、その「負の遺産」に押しつぶされたミサワも、三沢氏を誰も止められなかった。事情は中内氏も同じだ。
 企業には取締役会もあれば監査役もいる。株主総会もあるが、そんなチェック制度も機能させなければ「仏作って魂入れず」となる。強調したいのは、その魂を入れるのはほかならぬトップ自身、ということである。
 トップが実力者の場合、結果的に部下が経営者頼みになり、イエスマンばかりが周囲に集まる危険がある。実力経営者に率直に意見することが現実には難しい事実も認めざるを得ない。社外取締役を導入した企業も、どこまで使いこなしているか不透明だ。
 したがって、トップ自身が、ご意見番の苦言に耳を傾ける度量を持ち、自己を律することこそが重要になる。
 過去にも大型破綻(はたん)の際、「実力者」の存在が浮かび、チェック体制の不備から「仲間内資本主義」が批判された。だが、今回のカリスマ経営者の退場はこうした問題が未解決だったことを証明した。
 IT(情報技術)関連などベンチャー企業には個性豊かな「カリスマ経営者の卵」が多い。彼らをはじめ、すべての経営者は株主や取引先、従業員に対する責任の重さをかみしめ、どう自身を制御し、チェック制度を機能させるかを常に考えねばならない。
●=功の力を刀に

 日本全体が没落へと向かっている。

 奈良女児誘拐殺害:性犯罪情報の公開も 各国事情
 わいせつ目的誘拐容疑で逮捕された小林薫容疑者(36)は過去に性犯罪の検挙歴があった。海外では再犯防止のために性犯罪情報の公開に踏み切っている。加害者の社会復帰、プライバシー保護の観点のかねあいから、慎重論もある。
 小林容疑者は89年、大阪府箕面市内で幼女8人にいたずらしたとの強制わいせつ容疑で送検。91年には、大阪市内で女児を襲って絞殺しようとしたとして殺人未遂容疑で逮捕されたことがある。
 米国や英国、韓国は90年代半ば以降、未成年者への性犯罪で有罪が確定した者を対象に個人情報公開などに踏み切った。米国は96年、各州に情報公開を義務付ける連邦法を制定した。対象は、服役後も「公共の安全への脅威」と判断された者。韓国も01年、有罪確定者の中から量刑や被害者の年齢を考慮して対象者を決め、情報公開した。
 97年に制度をスタートさせた英国では最近、幼児ポルノサイトを見たことが発覚した場合も指紋、DNAなどを採取され、性犯罪者リストに登録されるようになった。一般公開はされないが、地域の学校などに関連情報を提供。対象者は、子供にかかわる仕事やチャリティーに参加できなくなる。登録期間は5年間。
 韓国で公開されるのは、氏名や住所、犯罪内容などで、米国は顔写真も公開。韓国ではインターネットと官報で告示され、米国もネットで開示している州が多い。ネット上の公開に「人権侵害」との懸念も出ているが、米連邦最高裁は昨年、合憲判決を出した。韓国では「顔写真も公開すべきだ」との主張がある。
 日本では、性犯罪者に限らず、受刑者の出所予定時期や出所後の住所地を知らせる「出所情報通知制度」を01年10月に導入したが、通知先は被害者本人やその家族などに限られている。出所した加害者との接触を避けるために被害者に転居などの必要があると検察官が判断し、被害者側も通知を希望している場合に適用され、通知件数は▽01年40件▽02年147件▽03年315件−−と増えている。
 被害者側に「もっと情報提供すべきだ」という意見がある一方、加害者の更生やプライバシー保護の観点から慎重論も根強い。今月成立した犯罪被害者等基本法は、被害者に必要な情報提供を行うことを国に求めており、内閣府に設置される犯罪被害者等施策推進会議が内容を検討する。【森本英彦、ロンドン山科武司、ワシントン和田浩明、ソウル堀山明子】毎日新聞 2004年12月31日 11時52分

 『街の安心』か『更生』か 強制わいせつ 再犯率4割
 奈良市の小一女児誘拐殺人事件で三十日、誘拐容疑で逮捕された新聞販売店従業員小林薫容疑者(36)は、過去に幼女を狙ったわいせつ事件を起こしていた。性犯罪は再犯も多く、米国などは地域社会の不安解消をプライバシーに優先、前歴者の氏名を公表しているが、日本では「社会復帰を妨げる」との慎重論もあり、情報開示の動きは出ていない。
■身近の恐怖
 「こんな近くにいたんですか…」。小林容疑者が一人暮らしをしていた奈良県三郷町ワンルームマンション。近くの主婦(30)は逮捕を知り、言葉を失った。小三の娘が毎日のように前を通り、数日前の夜には、寒いのに小林容疑者が短パン姿で立っていたという。「同じような犯罪を繰り返したのだとしたら、何事もないように暮らしていたことに腹が立つ」
 隣町の男性会社員(28)は「うちにも三歳の娘がいる。本当に怖い。子どもに対するわいせつ事件を起こし、またやる可能性がある場合は、名前を公表してほしい」と顔をこわばらせた。
 警察庁によると、全国の強制わいせつ事件被疑者の再犯率は約41%(昨年)で、刑法犯全体の平均を5ポイント上回っている。
 小林容疑者は一九八九年、大阪府箕面市で女児八人にいたずらしたとして、強制わいせつ容疑で送検され、二年後には大阪市で女児に抱きついて首を絞め、殺人未遂容疑で逮捕された。
■米韓は公開
 米ニュージャージー州は九四年から、当時七歳の女児が性犯罪歴のある男に殺害された事件を機に、前歴者を登録し名前や居住地、写真を公表している。こうした動きはほかの州にも拡大した。
 韓国政府も二〇〇一年、十八歳未満の少女への性犯罪で有罪が確定した約百七十人の氏名などをホームページで公開。批判もあったが、地域社会の安全が優先された。
 一方、ロンドンでは二〇〇〇年、大衆日曜紙が幼児への性犯罪歴がある人物の実名、写真を紙面で公表。掲載された人物が住民に襲われる事態が続発した。
 日本では、愛知県警が昨年から余罪情報の収集や被害者の不安解消を目的に、連続女性暴行など悪質な性犯罪者について、逮捕後に顔写真を公表する試みを始めたが、前歴者情報を地域住民に開示する動きはない。
 米国や韓国と同様の制度について、北大法学部の白取祐司教授(刑事訴訟法)は「現時点では制度導入に慎重であるべきだ。(前歴者が)社会復帰できず、立ち直る機会を奪われる可能性もある。メンタルケアを通じ、病的な性格を治療する制度を整える方がよい」と話す。
 一方、中央大法学部の藤本哲也教授(犯罪学)は「日本も検討すべき時期。市民に対する警告の点で、はるかに遅れている」と指摘。関西学院大の野田正彰教授(精神病理学)は「再犯防止や矯正教育に社会として取り組んでいるとは言えない」と分析している。(東京新聞

 警視庁まとめ:児童標的のわいせつ事件増加 2004年
 「治安回復元年」と位置づけた昨年からの警視庁の取り組みが実を結び、今年11月末までの刑法犯の認知件数は昨年同期比で5・4%減少、一方で検挙件数は3・4%増加した。殺人、強盗などの凶悪犯罪が減少する一方、子供を対象としたわいせつ事件が目立った。また、「振り込め詐欺」の被害が相次いだため今月、「身近な知能犯罪緊急対策本部」を設置し、徹底取り締まりを始めた。警視庁は、治安水準を10年前に戻すことを目標に、治安回復3年目に臨む。【長谷川豊、立山清也、合田月美、石原聖】
(中略)
殺人事件は減少した。11月末までの認知件数は126件で昨年同期比で17件(11・9%)減少し、検挙人数は129人(10・4%減)。強盗事件の認知件数は大幅減で、昨年同期より310件少ない797件だった。
 強制わいせつ事件は、ほぼ昨年並みだが、小学生を狙う事件が倍増、写真を撮るなど手口が悪質化した。江戸川区で今夏、小中学生がマンション屋上で性的暴行を受ける被害が相次ぎ、10月に婦女暴行傷害容疑で会社員(22)が逮捕された。
 ピッキングサムターン回し・焼き切りなどの手口による窃盗事件は11月まで2276件で、昨年同期に比べて1801件(44・2%)も減った。
(以下略)毎日新聞