毎日新聞に、各国の教育事情が載っていた。

◇「警告灯点滅」と危機感
■米国
 学習到達度調査の発表を受け、ページ米教育長官(1期目限りで辞任)は「警告灯が点滅している」と危機感を表明した。数学的活用力、問題解決能力とも低迷し、欧州やアジアの国々との差が開いたからだ。ワシントン・ポスト紙も1面で結果を報じ、「数学教育のあり方の論議を加速することになるだろう」と指摘している。
 人種や所得による教育格差の大きい米国では、調査結果を単純に比較するのは難しい。だが、小中学生の学力を調べた国際数学・理科教育調査と比べ、15歳を対象とした学習到達度調査の結果が悪いことを米政府は深刻に受け止め、高校教育改善の必要性を強調している。
 ブッシュ政権は教育改革を目指した「落ちこぼれ防止法」(02年1月成立)で、数学と科学を特に重視。小学3年以上の児童・生徒を対象に全米で標準テストを導入したり、数学と科学の専門家を教師に採用するための優遇プログラムを提案している。03年2月には教育長官による「数学・科学イニシアチブ」をスタートさせ、数学サミットや科学サミットを開いて指導方法の研究などに本腰を入れていた。
 しかし、今回の調査結果を見る限り、落ちこぼれ防止法の効果は上がっていない。ポスト紙は標準テスト導入に否定的なフィンランドなど北欧諸国がトップクラスの成績を上げていることを指摘し、テスト重視のブッシュ政権の教育政策と対比させている。【ワシントン河野俊史】

 ◇階層差と読解力に関連
 ■ドイツ
 ドイツの学習到達度調査の結果が00年に続いて振るわず、政府や関係者が強い衝撃を受け「ドイツの学校は破局的な状況」(独紙)と批判が高まっている。
 やり玉にあがっているのが伝統的学校制度だ。多くの州では、子供は小学5年生の時点で大学に進学する学校か、職業学校かを選ばなければならない。中学・高校段階での進路変更は極めて難しいのが現実だ。この制度が階級差を固定する役割を果たしていると指摘され、調査でも読解力の差と親の社会階層の差が、他の国にないほど強い相関関係を見せた。
 そのうえ生徒間の能力格差はアイルランドと並び最大級で、独社会が社会階層別に分断されつつある兆候を見せ付けた。
 ブルマーン教育相は「移民や貧しい階層に十分な教育の機会がないのは、この国の汚点」と自己批判。機会平等のため、進路決定の時期を遅らせるよう提案した。
 だが、ドイツは地方分権が進んでいるため、教育制度については国ではなく、各州が決定権と予算を握っている。多くの州は保守政党の野党が政権をとっており、中央政府の改革の要請にはたやすく応じない構えだ。【ベルリン斎藤義彦】

◇高い教員養成レベル
 ■フィンランド
 「国のプロジェクトで数学、科学教育を強化してきた成果です」。在日フィンランド大使館のリーサ・カルビネン参事官は学習到達度調査の結果に相好を崩した。
 フィンランドでは初等(6年制)、中等(3年制)の両課程を持つ総合学校で義務教育を行う。特徴は、その教員養成がハイレベルなことだ。教職に就くには大学院での修士号取得が必要で、教員志望の学生は早くから現場研修を含めた専門教育を受ける。
 94年の教育改革に伴い、国は総合的な教育方針や基準を示すだけ。具体的なカリキュラムや履修計画は各自治体や学校の裁量に任されている。
 「主体的に学び、ものごとを個性的、批評的に考える教育に重点を置いている」とカルビネン参事官。
 教員対象の研修ツアーなどを主催するNPO法人アントレプレナーシップ開発センター(京都市)の原田紀久子事務局長は今年9月、フィンランドの学校や教育機関を視察した。
 「先生の質が高いことと、詰め込みではなく、『あなたはどう考えるの?』という形で子供の発想を引き出す授業が印象的」と話した。【笹子靖】

 ◇小5から能力別授業
 ■シンガポール
 国際数学・理科教育調査のすべての部門でトップだったシンガポールが教育水準の高さを保っている理由は、小学校から始まる能力別教育、国を挙げて競争意識をあおる社会構造にある。
 小学5年に進級する前に、児童は全国統一試験を受け、その成績によって5、6年生の課程で能力別授業を受ける。その後の中等教育でも「特別コース」「高速コース」「正規コース」の三つに分かれる。
 この時点で生徒たちは、大学へ進学するか、専門技術を身に着ける学校に進むかが決められる。小学校の統一試験、上級学校への進学試験は厳しい。一般紙が各レベルの試験の成績優秀者を写真付きで大きく取り上げるほどの熱の入りようだ。
 15日付の英字紙「ストレーツ・タイムズ」インターネット版は、今回の調査結果をトップで取り上げ、「香港、日本、台湾、韓国を破った」と、五輪で金メダルを獲得したように報じた。
 シンガポールの教育制度や社会システムには、資源に乏しい島国が発展するには、教育で人材開発を図るしかないという、国家成立当時の理念が反映されている。【マニラ大澤文護】

◇園児に1時間分の宿題
 ■香港
 香港では、就職してからもキャリアや資格を手にすることに努め、さらに高収入の職を目指す。激しい競争に勝ち抜けるように、親は子供が幼いころから教育熱心だ。2、3歳から入る幼稚園の多くは、算数やパソコンの授業があり、宿題は最低1時間はかかる分量が毎日出される。
 小学校の6年と中学校の3年までは義務教育で公立校は無料だが、幼稚園で好成績を上げ、名門の公立小学校や私立小学校に入学させることを望む親が多い。大学予科に進むには統一試験に合格する必要があり、必須科目の一つである数学は特に重視されている。
 国際数学オリンピックへの参加に熱心で、香港代表を決める今年の予選には全中学の3割に当たる149校が参加した。
 今回の調査をめぐっては、ライバルのシンガポールとの比較が頻繁になされる。シンガポールが参加しなかった学習到達度調査の数学的活用力では1位になったが、国際数学・理科教育調査では敗れた。
 特に、最高水準の児童・生徒の割合が、シンガポールの半数程度というケースが目立った。専門家からは「教育の平均化でエリートが養成されず、香港の国際競争力が落ちるのではないか」との指摘も出された。
 一方、国際数学・理科教育調査で行われた意識調査で、数学や理科を「好き」と答えた割合は高くないことも分かった。また、日本と同様に読解力の低下が調査結果から判明したほか、運動に費やす時間が世界最低の水準にあり、理系重視の教育システムに対する批判も出ている。【香港・成沢健一】

 ◇好成績も学ぶ意欲低く
 ■韓国
 韓国では、学習到達度調査を受け、安秉永(アンビョンヨン)教育人的資源相が「我々の教育に競争力があるということだ」と胸を張った。11月の大学入試で300人以上がカンニングや替え玉受験で摘発され、教育界が意気消沈していた時期だけに、朗報を歓迎している。
 ただ、好成績の分析をめぐっては「教育の格差是正政策の成果」とする教育人的資源省と「受験競争が過熱した結果」とする有識者で見方が分かれる。
 韓国では、公教育での学校間格差をなくすため、69〜71年に中学受験を全面廃止、74年から高校受験がソウルなどの都市部で廃止された。朴正煕(パクチョンヒ)元大統領が推進したこうした政策や経済成長の結果、74年からの20年間で高校進学率は70%から99・7%、大学進学率は25%から81%と上昇した。
 だが大学受験の一発勝負になったことで受験競争は逆に過熱化。名門進学塾が集中するソウル市江南地区の高校は、ソウル大合格率が平均の2倍以上で、住居による地域格差が生まれている。
 成績はよくても学習意欲は低いとの指摘もある。学習到達度調査の数学の順位は3位だが、意識調査で「興味を感じる」と答えたのは29%だけでOECD平均より低い。「悪い点数をとるか心配だ」と答えた学生は78%で、同平均の42%の2倍近く、試験の成績に縛られている状況が浮き彫りになった。【ソウル堀山明子】

 同じく毎日新聞から、教育基本法改正について。

教育基本法「改正」を批判「もっと国民的議論を」−−毎日新聞社講演会 /福岡
 教育基本法について考える講演会「教育基本法の改正は必要か〜イブの夜、子どもの未来を考えよう〜」(毎日新聞社主催)が24日、中央区中央市民センターであった。約100人の参加者を前に瀬戸純一・毎日新聞論説副委員長が講演し、「憲法改正の動きと重ねてみると教育基本法改正の意図が透けて見える」と「改正」の動きを批判した。【米岡紘子、笠井光俊】
 瀬戸論説副委員長は「改正推進派はその理由に教育の荒廃を挙げているが、教育基本法に特定の言葉があったりなかったりするから教育の荒廃が起きているのか。法律に書けば、どうにかなるというものではない」と指摘。「国旗国歌法が成立した時も『強制するものにはならない』としながら、結局は東京都などで生徒の不起立による教師の処分が起こっている。かなり警戒していかなければならない」と訴えた。
 その後、少年問題に詳しい八尋八郎弁護士と瀬戸論説副委員長が対談。八尋弁護士は「基本法の『改正』問題についてもっと国民的な議論があってもいいはずだが、関心が薄いように感じる」と問題提起し、瀬戸論説副委員長は「自分の子どものことだけを考えるのではなく、これからどういう社会にするのかを考えてほしい」と応えた。
 講演の前には大学生らのグループが、基本法「改正」に対する危惧(きぐ)を自作の寸劇で演じた。毎日新聞 2004年12月25日