ひきこもり

 東京新聞の科学のページから。

 自閉症の人類学者が講演『自然の中に居場所ある』
 「自閉症の可能性を知ってほしい。訓練や能力の活用で社会とのつながりを実現できる」。自閉症の一種、アスペルガー症候群の人類学者ドーン・プリンスヒューズさん(40)=米・西ワシントン大講師=が、京都市で開かれた「ATAC」(コミュニケーション支援技術)カンファレンスで、初来日講演した。これまでの波乱の人生と自閉症への新しい視点を語った。 (吉田 薫)
■生い立ち
 障害児によくあるように、プリンスヒューズさんも学校でうまくいかないことが多かった。「私は小さいころから、チョウの呼吸を感じ、天の回転を感じた。世界は刺激的すぎて、圧倒されてしまう。学校は疲れる。刺激から守るフィルターをつくるのにエネルギーが必要だから。それに他の子には何かが欠けているように思った。自然や動植物のことや戦争のこと、どれも関心を持っていないようで落胆した」
 中一で飲酒を始め、十六歳で退学、家出、薬物にも手を出した。ホームレスとなり、ストリップショーのダンサーとして働くようになった。
■出会い
 初めて給料をもらったとき、大好きな自然と触れ合いたくなり、動物園に出かけた。「ゴリラをみたとき、何かが起こった。初めて私が理解でき、私のことを理解してくれる相手がいることに気づいた」。動物園に行ってはゴリラと会う生活を何年間も続け、そこで仕事をもらえるようになった。
 「ゴリラは私を受け入れてくれ、赤ちゃんのようにゴリラから学んだ。圧倒される、ということがなかったからだと思う。動物園のゴリラは自由を失ったことに怒り、家族が殺されるのを見たトラウマ(心的外傷)に苦しんでいた。ゴリラが人間を愛することができるなら、私もそれができると気づいた」
■そして現在
 その後、アスペルガー症候群との診断を受け、それによってかえって症状は和らいだという。通信教育で大学の課程を終え、さらに博士号を取得。人類学で西ワシントン大の講師を務めるまでになった。いま類人猿と会話をする試みに挑戦している。自然保護について彼らがどう思っているか聞いてみるのが狙いの一つだ。記号を使えば会話は不可能ではないという。
 「自閉症であっても、自然の中に必ず自分の居場所はある。多くの人がそれを見つけられるようにしたい」と語る。
 米国ではプリンスヒューズさんの生き方が反響を呼び、講演会がよく開かれ、自閉症の人たちに助言している。自伝「ゴリラの国の歌」は映画化される予定。各国語への翻訳も進み、日本語版は来年刊行されるという。
<メモ>
 アスペルガー症候群自閉症 どちらも発達障害の一種。アスペルガー症候群は「知的障害がない自閉症」とされる。生まれつきの脳の器質的障害が原因とみられる。対人関係を築くことが困難であったり、特定の分野への強い関心などがみられる。言語障害はない。300人に1人ともいわれるが、多くは診断されていない。注意欠陥・多動障害(ADHD)や学習障害を併発している場合もある。最近の少年犯罪でアスペルガー症候群が話題になったが、罪を犯す率が健常者と比べて高いわけではない。技術者や学者の中にはアスペルガー症候群の人がたくさんいるという説も。

 この記事を読んで、次の老子の言葉を思い出した。

(第47章)
戸を出ずして、天下を知り、*(よう)を窺(うかが)わずして、天道を見る。
其の出ずること弥(いよ)いよ遠くして、其の知ること弥いよ少なし。
是を以て聖人は、行かずして知り、見ずして名づけ、為さずして成す。

(第56章)
知る者は言わず、言う者は知らず。
其の兌(あな)を塞ぎ、其の門を閉ざし、其の鋭を挫(くじ)き、其の紛を解き、
其の光を和らげ、其の塵(よご)れを同じくす。是れを玄同と謂う。
故に得て親しむべからず、得て疎(うとん)ずべからず、得て利すべからず、
得て害すべからず、得て貴ぶべからず、得て賤(いや)しむべからず。
故に天下の貴となる。

 本当に敏感な人は、その心を守るために心を閉ざし、何もしゃべらなくなる。この世界には言葉だけの、薄っぺらい人間のなんて多いことか。
 昨日の毎日新聞夕刊から。

 特集WORLD:年の暮れに思う この国はどこへ… 漢字学者・白川静さん
 ◆この国はどこへ行こうとしているのか
 いつになく、重い気持ちをひきずりながら、2004年が暮れようとしている。この国はどこへ行こうとしているのか。人生の大先達に聞く。
 ◇野の心のまま、志士のごとく憂える
 ◇「戦争をどこまで知っておるのかね。小泉さん、62歳か。ご存じなかろう」
 「いま、起きてきたところです」。京都は桂離宮近くにお住まいの漢字学者、白川静(しらかわしずか)さん、94歳。昼寝が終わったばかりだというのに、わざわざ背広に着替えて応接間に現れた。文化勲章のお祝いのコチョウランとともに明治人の威厳が香りたつ。書棚に漢籍が積まれ、それはそれは静かなたたずまい。だが、先生の話はいきなり熱を帯びた。
 「現在のアジアは本来の歴史のありかたからすると、大ねじれにねじれておる。それはね、アジア3000年の歴史を通じて、民族同士が、相手を滅ぼしてやろうと憎悪の念で戦った戦争は一回もない。一回もないんです。ヨーロッパの歴史を考えてみたまえ。戦争が絶えなんだ。そんなところがEU(欧州連合)でついにひとつになった。ところが東アジアはいまも強国に支配され、われわれはその手先となって、憎み合っとるわけだ」
 京都で開かれている「文字講話」には碩学(せきがく)の白熱の講義を聴こうと全国からファンが押し寄せるというのに、本日はもったいなくも生徒はひとりだけ。で、アジアのねじれの原因はと問うと、大きな地声がさらに大きくなった。
 「それはね、日本が英米侵略戦争のまねをして日清、日露以来、戦争を繰り返したからだ。ぼくは第一次世界大戦も知っておるが、そのあと、シベリア出兵などがあって、小学生であったから、旗を振って、行列して、慰問袋を送ったりした。太平洋戦争では軍部が跳梁(ちょうりょう)して、ものが言えん状態で、民政党中野正剛(なかのせいごう)代議士が軍部と対立し、結局、孤立して、自殺した。ぼくは日本の運命を狂わせたのは軍部だと思うとる」
 ●春秋の筆法
 その戦争が終わって、一切はアメリカ式になった。そしていま、われらが小泉純一郎首相はだれよりもその同盟を誇りとしている。
 「春秋の筆法で言えば、これを附庸(ふよう)という。属国のことだ。同盟という言葉でごまかしているが、首都の近くの空港を彼らが使っておって、首都の入り口の軍港を彼らが使っておって、こんな同盟がどこにありますか。日本もアメリカに対して同じことをやっておれば同盟です。実はつけたしの国、アメリカプラスワンです。極めて不名誉なことです。都を攻め滅ぼされて、城下で講和を結ぶ、これを城下の盟(ちかい)といいます」
 古代中国生まれの言葉がそのまま現代の日本にどんぴしゃ。うなってしまう。で、ときあたかも自衛隊イラク派遣がすんなり延長されて。
 「だいたい、アラブ系の民族は、かつてヨーロッパや地中海を支配するほどの大勢力を築いたんです。彼らが自浄作用によって自分の国が治められんという、そんなことはない。西洋史の半分は彼らが占めておる。そんなものを無能力者扱いして、軍を出すのは、なんぞ裏に思惑があると思うのが普通です。春秋に義戦なしという。春秋時代には多くの戦争があって、彼らは正しいと主張して戦争をやった。だけどもわずかのちの孟子が、春秋の歴史において、およそ正義の戦いというものはないと喝破している」