小中高生自傷行為:99年ごろから急増 奈良教育大調査
 リストカットなど小中高生の自傷行為が99年ごろから急増していることが12日、精神科医の北村陽英・奈良教育大教授の調査で分かった。近畿の小中高校の養護教諭にアンケート調査したところ、教諭が遭遇していた事例の合計は、86〜97年度に年間0〜3人だったのに、98年度は同6人、99〜03年度は同10〜16人と2けたに増えていた。
 調査は03年8月〜04年1月、養護教諭119人に、各教諭が経験した児童生徒のリストカットについて質問。このうち、若手を除いた在職10年以上の68人の事例をまとめた。86年以降で146例の報告があり、女子が136例を占めた。(毎日新聞2005年8月13日)

 杉並区教委、中学23校に「つくる会」歴史教科書を採択
 東京都杉並区の教育委員会は12日、区立中学校23校で来年度から使う歴史教科書に「新しい歴史教科書をつくる会」主導で編集された扶桑社版を採択した。都内の市区町村教委が同社版を採択するのは初めて。同区では賛否両派の運動が起き、委員の賛否が分かれる中、この日も約850人が傍聴を希望するなど、結論が注目されていた。
 委員会は公開で行われ、納冨善朗教育長を含む委員3人が同社版を推した。区立中学校の生徒は7月1日現在計6345人。来年度は1、2年生計約4000人が歴史を学ぶが、このうち1年生約2000人が同社版を使う見込みだ。
 都内では、都教委が来年度から使用する教科書として、同社版を都立の中高一貫校4校と盲・ろう・養護学校(分教室を含む)のうち、盲学校と知的障害の養護学校を除く計25校用に採択している。(朝日新聞2005年08月12日)

 首相参拝 是か非か
 小泉純一郎首相が再び靖国神社参拝に踏み切るかどうかが注目されている。首相は就任以来、八月十五日を避けながら毎年参拝を続けてきたが、中国や韓国の反発はかつてないほど高まっている。四年余の小泉外交の評価と合わせ、識者に意見を聞いた。 (政治部・高山晶一、篠ケ瀬祐司)
 ■浅井基文広島平和研究所長
 外務省で中国課長、地域政策課長などを歴任。退官後、日大教授、明治学院大教授を経て今年4月から現職。64歳。
 ――小泉政権の外交をひと言で言い表すと。
 「『主体の欠如』。米国の言うなりで、アジアには見向きもしない。アジアに対して非常に感覚が乏しい政治家だ」
 ――首相の靖国参拝をどう見る。
 「靖国神社は日本の軍国主義礼賛のシンボル。一国の首相が参拝すると、植民地支配を受けた中国や韓国の傷口をもう一度開いて塩を塗ることになる。だれが首相でもやっちゃいけない」
 ――参拝は国益を損なうとの懸念もある。
 「経済交流にも悪影響が生じることを考えないといけない。日本は『政冷経熱は変わらない』と高をくくっているが、日本の経済界は軍事力強化や改憲を支持する発言をしている。(首相と)同じ穴のむじなとみなされかねない」
 ――中国や韓国は、自国民の反日感情をにらんで、ことさらに参拝を問題視している、という見方もある。
 「中韓ともに、国民感情が暴走して収拾がつかなくなると困るという気持ちが強いと思う。中韓反日感情の爆発を誘うようなことをやっていると見るのは大間違いだ」
 ――日本にも反中感情が出ている。
 「日本人は正しい歴史教育を受けておらず、青少年が偏狭なナショナリズムを持ちやすい雰囲気になってしまった」
 ――A級戦犯を祭った靖国神社への参拝は、東京裁判を受け入れたサンフランシスコ講和条約の放棄につながるとも指摘されている。
 「それに等しい。首相に代表される右派勢力のけたたましい言動には、米国も首をひねらざるを得なくなっている」
 ――イラクへの自衛隊派遣をはじめ、小泉政権が米国の望む政策を進めた背景に何があるのか。
 「ブッシュ政権9・11テロ以降、米国の言うことを聞く有志連合で戦争をやる方向で動きだした。もともと九条改憲論者だった首相にも『自衛隊は一丁前の軍隊になれ』というすごい強力な風が吹き込んだ。ほかの首相ならもう少し慎重に運んだかもしれない」
 ――外交面で衆院選の争点は。
 「靖国やアジアとの友好関係だけでなく、改憲、日米軍事同盟重視(の是非)も問うべきだ」
 中西輝政京大教授
 静岡県立大教授などを経て現職。「帝国としての中国」「国民の文明史」など著書多数。京大卒。58歳。
 ――首相の参拝には、政教分離原則に触れるおそれやA級戦犯合祀(ごうし)の問題がある。
 「政府が特定宗派の宣伝や普及、保護をすれば政教分離原則を侵すことになるが、今の形での参拝は原則に抵触しない」
 「個々人が『A級戦犯は国を滅ぼした人だ』ととらえてもいい。しかし恩給法の改正で、東京裁判の受刑者は拘禁期間も在職期間と算定された。国家意思としてA級戦犯戦争犯罪人でないと位置付けられている」
 ――日本はサンフランシスコ講和条約締結の際、A級戦犯を有罪とした東京裁判を受け入れたのではないか。
 「正本である英文の講和条約の一一条に『判決を受け入れる』とある。これは刑の執行を継続するという手続き条項。講和条約は、東京裁判の内容や歴史観を受け入れる文脈のものではない」
 ――中韓両国は、首相の参拝は戦争を美化するものだと反発している。
 「小泉首相は繰り返し不戦の誓いをし、戦争美化はしていない。中国が靖国問題を取り上げるのは、政治・外交カードとして利用し、東シナ海のガス田や台湾などほかの問題を有利に進めようとしているからだ」
 「日本が靖国問題で譲歩すれば、主権や安全保障の重大問題で中国に大きく譲歩したり、中国との全面対決に向かうかもしれない。首相には八月十五日に参拝してもらわないと困る。外国の反対で公約が実現できなかったら、国家主権が根底から崩れる。日本史的スケールの問題だ」
 ――だが、「政冷経熱」を高じさせないか。
 「日本の国是は政経分離。政治に煩わされず、経済関係を深め、国民の相互理解を進めるのが戦後の平和哲学で、日中友好は可能だ」
 ――これまでの小泉外交をどうみるか。
 「最初に方針を持たず、走りながら考えた外交だったが、『アジア軽視、対米追従』という指摘は間違い。日朝国交正常化を望み、東アジアサミットにも関与している。訪中し、『中国は脅威ではない』とアピールもし、歴代自民党政権と差はない。北朝鮮外交などで米国とすり合わせていない。最近では、ブッシュ政権が小泉外交に不満と懸念を抱いている」(東京新聞

 ■小泉参拝■<上>戦没者の霊 私物化するな 慶大助教授 小熊英二さん
小泉首相遊就館を見学して、どんな展示をしている施設か承知しているのでしょうか」と話す小熊英二慶応大助教
 小泉純一郎首相の靖国神社参拝は、国際政治的にはもちろん、国内政治的にも何の利益もない行為だと思います。
 国際政治的には、中国も韓国も、今さらこんなことでもめたがってはいないと思います。しかし特に中国は、日中国交回復し、賠償請求権を放棄して以来、「悪かったのは日本の軍国主義者で、一般の日本国民は中国国民と同じく被害者だ」と自国民に説明してきました。ところがその「軍国主義者」であるA級戦犯が合祀(ごうし)されている所に日本の首相が参拝したら、この説明がぶち壊しになる。そうなれば、自国民の不満を抑えきれなくなるので、やめてほしいのでしょう。
 国内政治的には、自民党日本遺族会の票を無視できないにしても、あえて参拝を強行するほどのメリットはない。小泉さんは米国にはよく譲歩するお方ですから、外圧に屈しないというイメージを売りにしている政治家でもない。だとすると参拝することで不戦の誓いができると本気で勘違いしているか、個人的に意固地になっているとしか考えられませんね。
 戦争犠牲者の追悼という観点からいえば、靖国神社は不適格です。政府が公務死と認定した戦没者を祭っているだけで、空襲や原爆で死んだ人の大半は祭っていない。
 また靖国神社は、特定の歴史観や思想を押し出しています。靖国神社は三年前、兵器や遺品などを展示する博物館「遊就館」を全面改装し、新館を増設しました。そこでは、日中戦争や太平洋戦争を「侵略戦争でなく、自存自衛の戦争、アジア解放の戦争だった」と正当化しています。
 戦没者の遺族には、いろいろな人がいます。親族や戦友の霊に参拝はしたいけれど、あの戦争は侵略だったと考える人もいる。一兵士として民間人や捕虜の殺害現場を見たという人もいるし、戦友のお参りはしたいが、あんな無謀な戦争に日本を導いた当時の指導者に参拝する気はないという人もいる。実際に昭和天皇は、A級戦犯が合祀された後は、靖国参拝をやめてしまいました。
 それにもかかわらず、あの博物館をつくった靖国神社は「参拝するからには、この歴史観に賛成しなさい」と遺族に踏み絵を迫ったに等しい。いわば、戦没者の霊を一宗教法人が私物化して、特定の歴史観を押しつけている、ともいえます。
 ああいう物語風の薄っぺらな歴史観をつくれるのは、単純に世の中が右傾化したというより、戦争が遠くなって当時の実情を知らない世代が増えたからだと思いますね。
 首相をはじめ靖国に参拝したいという政治家には、以下のことを申し上げましょう。わざわざ八月十五日に、テレビカメラの放列のなかを参拝して国の内外を騒がせて、死者の霊が喜ぶと思いますか。売名行為ではなく本当に死者の霊を尊びたいというなら、ご自宅ででも静かに戦没者の霊の平安を願いなさい、と。
    ◇
 戦後六十年目の夏。小泉純一郎首相は靖国神社に参拝するのだろうか。国内外の注目が集まる中、識者が参拝の是非を語った。
 おぐま・えいじ 東京生まれ。42歳。東大農学部卒業後、出版社勤務を経て、東大大学院博士課程修了。2000年から慶応大総合政策学部助教授(歴史・社会学)。著書に「単一民族神話の起源」(サントリー学芸賞)、「<民主>と<愛国>−戦後日本のナショナリズムと公共性」(大仏次郎論壇賞)、共著に「<癒し>のナショナリズム」など。(2005年8月2日)

 ■小泉参拝■<中>『A級戦犯』は罪人でない ジャーナリスト 櫻井よしこさん
「叔父が2人靖国神社に祭られていますが、靖国神社が死者と生者の対話の場所として最も適切だと思います」と語る櫻井よしこさん=東京都港区で
 小泉純一郎首相の靖国神社参拝そのものは評価しますが、参拝の仕方や理屈付けには、大きな疑問符が付きます。
 靖国の御霊(みたま)にお参りするのと初詣では同じようでいて違う。春と秋の例大祭や、八月十五日に参拝すべきなのに、前倒ししたりするのは、それをわきまえていない証拠で、心もとない。
 小泉さんは国会で「極東国際軍事裁判東京裁判)を受諾し、A級戦犯戦争犯罪人と認識している」と答えましたが、私たちは、東京裁判の中身をもう一度振り返る必要があります。マッカーサーでさえ後に「間違いだった」と認めたほど、国際法無視の一方的な裁判でした。その実態を知れば、A級戦犯とされた人々に“罪”という表現を軽々に使うのははばかられるはずです。
 日本の国会は独立回復後すぐに、戦犯として刑死・獄死した人々を戦没者とする法改正を全会一致で行い、遺族への恩給支給などを始めました。彼らは罪人でないと認めたからです。
 開戦して敗戦に導いた国内的責任は、日本人自身が裁くべきで、外国人に裁かれる必要はない。その最たる責任者が天皇陛下でした。陛下がどこまで戦争を止められたのか議論はあるでしょうが、一番上にいた陛下が退位して責任を取らなければならなかった。
 靖国問題で日本が譲歩しても、日中問題が片づくとは思えません。靖国で譲れば、次は教科書。尖閣諸島東シナ海の海底資源問題でも攻勢をかけ続けるでしょう。
 日中両国は一九七二年に国交を回復、七八年に平和友好条約を結びました。現在までに三兆三千億円を超える政府開発援助(ODA)が本格化した当時、中国は尖閣問題を将来の問題として棚上げしました。当時の中国が優先したのは、いかに援助を引き出すかで、靖国問題は二の次だったのです。
 もちろん、中国や朝鮮半島の人々が戦争で受けた心の痛みを無視することは、日本人として誰にも許されません。それを踏まえた上で、戦争に関するさまざまな事実が中国でなぜ曲げられてきたのかと、日本側からも問わねばならない。
 中国は東京裁判直後、日中戦争の中国人犠牲者数を三百二十万人としていたのに、いつの間にか五百七十万人に増えました。中華人民共和国になると二千百六十八万人に急増。江沢民総書記時代の九五年には三千五百万人と突如言い出した。
 中国の研究者に根拠を尋ねたら「国民感情を反映している」と。それでは、事実関係を論じる資格は中国にない。歴史の解釈を一致させるのは困難でも、知的に成熟した大人の国同士なら、感情を排除した事実認定は共有できるはずです。
 世論調査では、首相参拝反対が半数以上ですが、原因は中国との摩擦でしょう。日本人が東京裁判の問題点を明確に認識することができていたら、結果は違ったかもしれないと思います。
 さくらい・よしこ ジャーナリスト。ベトナムハノイ生まれ。59歳。米ハワイ州立大歴史学部卒業後、アジア新聞財団東京支局長などを経て、日本テレビきょうの出来事」のニュースキャスターを務めた。1995年に「エイズ犯罪 血友病患者の悲劇」で大宅壮一ノンフィクション賞、98年に菊池寛賞を受賞。近著に「何があっても大丈夫」など。 (2005年8月3日)

 ■小泉参拝■<下>中国にはまだ『同時代史』 ノンフィクション作家 保阪正康さん
「中国にとって戦争は『歴史』ではない」と語る保阪正康氏=東京都千代田区
 靖国神社に参拝することは、併設されている遊就館歴史観を追認することになることを理解すべきです。小泉純一郎首相は、先の大戦を肯定する靖国神社の思想的立場を支持しているのでしょうか。これは、中国や韓国の批判とはまったく別次元の歴史観の問題です。
 私は極東国際軍事裁判東京裁判)を否定しません。確かに「人道に対する罪」や「平和に対する罪」は事後法であり、裁判の内容自体には批判すべき部分は多い。
 しかし、日本は戦争犯罪人の処罰を盛り込んだポツダム宣言を受諾している。その土台をきちんと見れば、裁判自体は認めざるを得ない。逆に裁判の過程で、情報統制下にあった戦前、戦中に何も知らされなかった日本人が、驚愕(きょうがく)する事実が次々と明らかにされた側面もありました。
 ポツダム宣言を受諾していることを無視して、「勝者の裁き」と批判するのは、日本が敗戦国であるという認識を欠いている。まるで戦争に勝ったと見間違えるような倒錯した論理が、公然とまかり通っている。
 戦争の目的は、アジア諸国の植民地支配からの解放だったという主張は正しくない。本当にそうなら、なぜ開戦の詔勅に明記されていないのか。「東亜の解放」は後づけの理屈だからです。
 かつて中国の周恩来首相が「日本人民も一部の軍国主義者による犠牲者だった」と言ったことを私は理解できなかった。日本人をばかにしているとさえ考えました。侵略の本質を正面から受け止めることにならないと思ったからです。
 二〇〇〇年八月に訪中した際、中国要人に周首相の真意を聞く機会がありました。説明によると、この言葉は中国人民に向けて発したものだというのです。一九五二年、中国共産党の公式機関がハルビンで開くスケート大会に、日本選手を招待すると発表すると、その機関に老若男女のデモ隊が押し寄せ、何日も抗議運動が続いた。
 噴出する反日感情を放置すれば、将来、大変な遺恨を残すと考え、周恩来は日本人兵士も犠牲者とする論理で、人民を説得したというのです。私はこの説明を聞いて発言の真意が理解できた。
 日中の国交正常化の前提にもこの論理がありました。こうした経緯を踏まえれば、戦争指導者とされたA級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社への首相の参拝について、中国側が不快感を持つことは当然でしょう。
 侵略された中国側にとって、戦争はまだ「歴史」ではなく「同時代史」なのです。被害の記憶は二世代、三世代と伝承されていく。中国社会の底流に流れる反日、抗日のエネルギーは、日本人の無自覚な言動によってたちまち火がつく。小泉首相靖国参拝もそうした無自覚な言動の一つであると思うのです。(この企画は瀬口晴義、西田義洋が担当しました)
ほさか・まさやす 65歳。同志社大卒。昭和史研究の第一人者で、昨年度の菊池寛賞を受賞した。最近は、たびたび訪中し、近現代の日中関係の歴史研究に取り組んでいる。近著に「『特攻』と日本人」「あの戦争は何だったのか」がある。(2005年8月4日)