中学歴史教科書 岡山・総社市教委 扶桑社採択を断念 抗議相次ぎ一転
 岡山県総社市教委は29日、臨時教育委員会を開き、来春から使用する中学歴史教科書として大阪書籍の教科書を採択した。同市は当初、新しい歴史教科書をつくる会のメンバーらが執筆した扶桑社の歴史教科書の採択を目指して共同採択地区の離脱を文部科学省に要望していたが、一転して断念した。
 これに先立つ同日午前、中山成彬文科相閣議後記者会見で、岡山県教委から事情を聴く意向を明らかにした上で、採択期間中の採択地区変更は可能との見解を示していた。
 総社市が扶桑社採択を求めていることが報道されたこの日、市役所には抗議の電話や電子メールが相次いだ。
 竹内洋二市長は「いったん決めたことは貫いてほしかったが、教育委員会には介入できない。私としては扶桑社の教科書が最もふさわしいという見解に変わりはない。大臣にまで見解を出していただいて申し訳ない」と話している。【2005/07/30産経新聞

 教科書問題:「戦争美化」に反論−−愛媛1000人委が声明 /愛媛
 今年8月の中学校歴史教科書の採択に絡み「教科書を改める愛媛1000人委員会」(宮川康会長)のメンバーが29日、県内の全教委にあてた「採択の際に外部の不当な介入に屈しない」ことを求める声明を発表した。今後、各教育委に提出するという。
 声名は、扶桑社の教科書が「戦争を美化している」と言われていることについて、根拠を示していない中傷と批判し「学習指導要領の目標が大切な基準」と主張。その上で「韓国人や中国人まで動員して行われる採択妨害を毅然(きぜん)として排除し、子供達と我が国の将来にとって、最も優れている教科書を採択することに全力を挙げていただくことを要望します」と訴えている。
 宮川会長は「子どもたちが、自国への愛情を深められるような教科書が採択されてほしい」と話した。【伊藤伸之輔】(7月30日毎日新聞

 教科書採択 こんなやり方でいいのか(朝日社説)
 東京都教育委員会は、来春から東京都立の中高一貫校などで使う歴史教科書として「新しい歴史教科書をつくる会」主導の扶桑社版を採択した。
 「つくる会」の教科書は4年前の検定で合格し、採択の対象となった。今回は2度目である。
 私たちは4年前の検定時も今回も、この教科書について、教室で使うにはふさわしくないと主張した。光と影のある近現代史を日本に都合よく見ようとする歴史観が強すぎると考えるからだ。
 そのことは別にしても、都教委の採択のやり方は、きわめて問題が多いと言わざるを得ない。
 まず、歴史教科書の選定にあたって、とくに着目する点として(1)北朝鮮による拉致問題の扱い(2)日本の神話や伝承(3)竹島尖閣諸島の扱い、を挙げて一覧表をつくったことだ。
 いずれも「つくる会」が力を入れている項目であり、8社の教科書の中では神話などの記述が最も多かった。
 歴史教科書は、日本の長い歴史というものを教科として学ぶための教材である。この3点が大事でないというつもりはない。しかし、何よりも重要な項目だろうか。
 都教委は、中高一貫の各校ごとに、歴史上の人物や文化遺産などの観点を加えた資料を作成し、点数化している。
 検定を重ねるようで点数化には賛成できないが、合計点が最も高いのは4校とも扶桑社以外の教科書だった。
 着目する3点の結果と調査資料の合計点が食い違えば、教育委員会は慎重に検討するのが当然だろう。だが、何の議論もないまま「つくる会」の扶桑社版が採択された。
 これでは、都教委は初めから扶桑社版の採択を決めていたのではないかと言われても仕方あるまい。
 なかでも見過ごせないのは、都教委が学校の意見を排除していることだ。
 教科書を使うのは教師と生徒である。教育は学校全体の取り組みであり、各校とも子どもたちに何を、どのように学習させるかを真剣に考えている。どんな教科書を使うかは保護者にとっても大きな関心事だ。
 教育委員会が一方的に教科書を選び、現場に押しつけるようなやり方では、学校や教師の意欲が低下しかねない。
 東京都教委は卒業式でも教員の処分を振りかざして日の丸・君が代を強制してきた。教科書採択でも同じような押しつけを繰り返すつもりだろうか。
 法律の上では教科書は各地の教育委員会が決めることになっている。それでも多くの教育委員会が学校や教師の声も参考にして決めてきた。それが子どもたちにとって有益だと判断したからだろう。
 教科書採択は、8月末の期限を控えてこれからというところが多い。教育現場の声にも耳を傾け、選んだ経緯は公表して丁寧に説明する。そうした採択であってほしいものだ。