中学歴史教科書 岡山・総社も「扶桑社」選ぶ 地区協否決、文科省に単独採択要望
 岡山県総社市教委が、来春から使用する中学歴史教科書として、新しい歴史教科書をつくる会のメンバーらが執筆した扶桑社の教科書を選んでいたことが28日分かった。同市などで構成する共同採択地区は別の教科書を決めたため、総社市文部科学省に対し、採択地区から離脱して単独で扶桑社を採択したいと要望した。教委の意向と共同採択地区の結論が食い違うケースは茨城県大洗町でもあったが、市は単独で採択地区になることができるため、文科省の見解が注目される。
 関係者によると、総社市教委は26日の教育委員会で扶桑社を採択すべきだとの意思を確認した。総社市倉敷市など2市7町で同じ教科書を選ぶ「倉敷採択地区」を構成しており、同日開かれた地区協議会で扶桑社採択を主張したが紛糾。翌日再び協議会が開かれ、多数決で大阪書籍の教科書が選ばれた。
 同様のケースは茨城県大洗町でもあったが、採択権が教育委員会にあると定められている一方、採択地区の最小単位は「市もしくは郡」とされており、同町は正式採択を断念し副教材として扶桑社教科書を使用する。
 しかし総社市は採択地区になることができるため、文科省は採択協議会後も採択地区の変更ができるかどうか検討している。総社市立中は4校で、来年度の1年生は約520人の見込み。
 教育委員の任命権者である竹内洋総社市長は「日本に誇りを持つことで自分に自信を持つ子供たちを育てることができる。そのために扶桑社の教科書が最もふさわしいという認識で私も5人の教育委員も一致している」と話している。【2005/07/29産経新聞


 扶桑社教科書 総社市の単独採択可能 文科相、地区離脱認める見解
 岡山県総社市教委が、教科書共同採択地区を離脱して新しい歴史教科書をつくる会のメンバーらが執筆した扶桑社の歴史教科書を採択したいと求めている問題で、中山成彬文科相は二十九日の閣議後記者会見で、採択期間中の採択地区変更は可能との見解を示した。総社市が単独で扶桑社を採択できる可能性が出てきた。
 中山文科相は、採択地区の変更が法解釈上可能かとの質問に対し「そうだ。市と郡が採択地区だ」と述べた上で、「地元で協議を重ねて結論を得ることが重要。岡山県教委に事情を聴いていきたい」と、文科省として調査する意向を示した。
 総社市倉敷市など二市七町で同じ教科書を選ぶ「倉敷採択地区」を構成。二十六、二十七の両日開かれた地区協議会で扶桑社を採択すべきだと主張したが、多数決で大阪書籍の教科書が選ばれていた。
 同様のケースは茨城県大洗町でもあったが、採択権が教育委員会にあると定められている一方、採択地区の最小単位は「市もしくは郡」とされており、同町は正式採択を断念し、副教材として扶桑社教科書を使用する方針を固めている。
 しかし、総社市は法解釈上、今からでも採択地区になれる可能性があるため、倉敷採択地区を離脱して単独の地区になり扶桑社を採択したいと文科省に要望している。(7月29日産経新聞

 人物・文化財で教科書“点数化”
 来春から中学校で使う教科書を選ぶために都道府県の教育委員会が作成する「選定資料」で、特定の項目の記述個所数などを「数値化」する動きが出ている。二十八日に中高一貫校用などに「新しい歴史教科書をつくる会」が主導する扶桑社版の歴史と公民の教科書を採択した東京都教委も同様だ。「教科書を客観的に比較・検討するため」というが、教育関係者からは「項目の設定に政治的な意図が働く恐れがある」と批判的な意見も出ている。 (社会部・高橋治子、片山夏子)
 教科書の採択権限は、公立高校は都道府県教委に、公立小中学校は市区町村教委にある。今年は四年に一度の中学校教科書の採択時期に当たり、市区町村教委を指導、助言する立場の都道府県教委が「選定資料」を作成し、参考に示している。
 数値化が現行のような形で導入されたのは、首都圏では都が二〇〇〇年、神奈川が〇一年、埼玉が今年から。千葉は導入しておらず、群馬、栃木、茨城は数値化の有無を含めて内容を公表していない。
 歴史の教科書に関する選定資料の場合、都は人物、文化遺産、他民族の文化・生活等、東京に関する歴史的事象、人権に関する課題、国際関係・文化交流の六項目の記述個所数を一覧表で比較し、三項目で扶桑社版が一位だった。また、拉致問題や神話・伝承などに関する記述内容を一覧表にして比較できるようにした。
 神奈川も人物の数や同県に関連する記述個所を数値化。さらに、北方領土竹島尖閣諸島慰安婦、強制連行、拉致の各項目について、記述個所と記載内容を比較する資料を作成した。
 項目の選び方について、同県教委子ども教育支援課は「前回の採択以降、話題になった今日的な問題を取り上げた。問題の切り取り方はさまざまなので、記述の仕方が参考になれば」と話す。
 埼玉も同県に関連する歴史的事象を一覧表にしたほか、索引に出てくる人物、文化遺産、国際関係・文化交流の数を比較。同県教委義務教育指導課は「記述による比較は主観が入りやすい。客観性を高めようと、数値化を導入した」と話す。
 東京二十三区では長年、「学校票」といわれる教員からの希望が最も多い教科書を採択してきた。
 だが、一九九七年に「つくる会」や、自民党安倍晋三氏や中川昭一氏らをメンバーとする「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会(現・議員の会)」が発足。「教職員組合の影響で自虐的教科書が採択されている」として、学校票の廃止や、教育委員会の採択権限の明確化を求める運動を展開してきた。
 こうした運動が数値化の導入に影響したと指摘する声もある。
 ある教科書会社の編集担当者は「例えば何を『文化遺産』とし、何を『国際問題』とするのかで、数字が全く変わってくる」と、数値化による客観性に疑問を呈する。さらに「数を多くすれば、生徒が消化不良を起こす。学びやすさや特色など、数値化によって、重要なところが見落とされてしまうのではないか」と、弊害を危ぶむ。
 佐藤学・東京大教授(学校教育学)は「検定合格した教科書を、都道府県教委が二重検定することになり、問題だ。教育委員は知事が任命するため、政治色の強い項目が設定される恐れもある。本来は教員が教科書選びの中心になるべきで、学校ごとに教科書を採択するのが望ましいあり方だ」と話している。(東京新聞

 教科書問題:都教委「つくる会」教科書採択、市民団体の抗議相次ぐ /東京
 ◇「いきなり採決、審議といえぬ」
 「十分、審議は尽くしたのか」。都教育委員会が28日、都立の中高一貫校の中学4校と養護、ろう学校21校で、採択を決めた「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーが執筆した扶桑社の歴史教科書。教育委員6人が、無記名で各教科の教科書を選び、多数決で決めたが、「つくる会」教科書については全員一致で、意見交換は行われなかった。教職員や保護者らさまざまな団体から抗議が相次いだ。
 中高一貫校の第1号として、今年4月開校した都立白鴎高校付属中学が昨年、歴史教科書で扶桑社を採択したのに続くもの。同校と来春開校する両国高校付属中、小石川中等教育学校小石川高校の改編)、桜修館中等教育学校(都立大付属高校の改編)の4校で、歴史教科書を採択。養護、ろう学校21校は中学社会の歴史と公民で、扶桑社を採択した。
 委員会終了後、会見した「『つくる会』教科書採択を阻止する東京ネットワーク」の三浦久美子事務局長は「いきなり投票が行われ、あれで審議といえるのか。採択の期限まで1カ月残っている。十分に議論すべきで、採択の撤回と手続きのやり直しを求める」と抗議した。
 障害者団体や元養護学校校長らも「障害者への人権侵害が平然と行われていた大日本帝国憲法教育勅語を礼賛する教科書の採択は許されない」と緊急アピールを出して反対の声を上げた。4校の高校OBの有志や労組なども相次いで抗議声明を出した。【猪飼順】(7月29日毎日新聞